原爆の残酷さもさることながら、そこで生き残った人たちの切なさというかやるせなさというか、生きることへの想いが伝わってくる物語でした。
私にしては珍しく、読み終わった後すぐに最初からもう一度読み返して、2回も読んでしまいました。それくらい心に残る物語。
最も注目したのは、原爆に2世、3世の問題があるという点。今までは被爆した人の体が放射能に蝕まれ、さらに心にも大きな傷を残しているという、直接の被爆者の話ばかりに注目していた気がします。しかし実は、被爆者の子や孫といった、直接の被爆者ではない人々も放射能の害に怯えざるを得ないという事実、それに改めて気付かされました。作中で被爆者であるお母さんが自分の息子に「被爆者と結婚するのか。何のために遠方に疎開させたのか。」という、聞きようによっては一種の差別とも取れる趣旨の話をするシーンは、そう心配せざるを得ない厳しい現実に置かれたお母さんの苦しい胸中がひしひしと伝わってきました。結局作中ではその息子は被爆者と結婚し、お母さんもそれがいいと思うようになるのですが、生きることの切ない暖かさと放射能の残酷な冷たさの対比に、涙が出ました。
原爆投下から長い年月を経て、直接の被爆者では鬼籍に入る人が多くなった後も、生き残った人とその子孫は、ずっと苦しみ続けていて、それでも頑張って生きている、原爆の惨(むご)さと生きていることの大切さの対比がこの物語が語りかけてくる想いだと思います。
私は、個人的には、映画や本などエンターテイメントの分野で「人の生き死に」そのものを扱うのは、命の尊さを直接商売などに利用しているようで、反則だと感じることが多いのだけれど、この物語からは、歴史とその歴史の中で生きた人々の思いを伝えるという意味で、反則を超えた感銘を受けました。
(夕凪の街桜の国 こうの 史代 双葉社)
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